第3章

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藤丸が、稲垣をうかがい見るようにしてつぶやく。 「また起こったんですよ。  そのときと同一の犯人によるものと思われる事件が」 「というと、バラバラ殺人事件?」  稲垣は無言だった。  代わりに藤丸がうなずいた。 「そうです。だからまだ、慎重に捜査を進めているところなんです。今度は、犯人を逃がすわけにはいきませんからね」  なるほど、この山のような犯罪に関する書籍の山は、そのためのものだったか。  妻を殺した犯人にもう一度出会えたのだ。  稲垣は心に期するものがあるに違いない。  部屋に入ってきたときに見せたあの表情は、きっと妻を思ってのことなのだろう。  かすかに横目で稲垣をうかがってから、藤丸は持ってきた袋にゴミ屑をまとめた。 「それでは、僕はこの辺で。  あれ? 黒岩さん食べなかったんですね。もったいないので僕が持って帰りますよ」  そのまま藤丸は席を立って、部屋から出ていった。  稲垣は、部下が出て行った扉をじっと見つめていた。  その瞳は、ひどく疲れきったように細められていた。  最初に見せた、苦渋をおびた表情に近い。 「どうかしましたか?」  ラウムは、稲垣の沈黙に不審を感じた。  すると、稲垣は、視線だけはやはり藤丸の出て行った扉に向けたままで、こう、答えを返したのだ。 「創世記新報さん、もう一つスクープを与えられそうですよ。  どうやら今度の事件の犯人は、我々警察官の中に潜んでいるようなのです」
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