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藤丸が、稲垣をうかがい見るようにしてつぶやく。
「また起こったんですよ。
そのときと同一の犯人によるものと思われる事件が」
「というと、バラバラ殺人事件?」
稲垣は無言だった。
代わりに藤丸がうなずいた。
「そうです。だからまだ、慎重に捜査を進めているところなんです。今度は、犯人を逃がすわけにはいきませんからね」
なるほど、この山のような犯罪に関する書籍の山は、そのためのものだったか。
妻を殺した犯人にもう一度出会えたのだ。
稲垣は心に期するものがあるに違いない。
部屋に入ってきたときに見せたあの表情は、きっと妻を思ってのことなのだろう。
かすかに横目で稲垣をうかがってから、藤丸は持ってきた袋にゴミ屑をまとめた。
「それでは、僕はこの辺で。
あれ? 黒岩さん食べなかったんですね。もったいないので僕が持って帰りますよ」
そのまま藤丸は席を立って、部屋から出ていった。
稲垣は、部下が出て行った扉をじっと見つめていた。
その瞳は、ひどく疲れきったように細められていた。
最初に見せた、苦渋をおびた表情に近い。
「どうかしましたか?」
ラウムは、稲垣の沈黙に不審を感じた。
すると、稲垣は、視線だけはやはり藤丸の出て行った扉に向けたままで、こう、答えを返したのだ。
「創世記新報さん、もう一つスクープを与えられそうですよ。
どうやら今度の事件の犯人は、我々警察官の中に潜んでいるようなのです」
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