第4章

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「ここにきてから、ずっとああなんですよ。  あれらの本は、藤丸刑事からの差し入れです。  どういう気まぐれなのか、前科十犯の常習犯が、まさか宗教に目覚めるなんてね」  ラウムは、口から心臓が飛び出るかと思った。  離れて置かれた本の中には、新約、旧約両聖典が混ざっており、その他のものもすべて、神やら聖やら光やら、目ざわりな文字が記されたタイトルの本ばかりだったのだ。  牢獄の男が、二人に気づいて顔を上げた。  顔の造形と不気味なほど不釣り合いな、愛想の良い笑顔を浮かべている。 「どうやって、藤丸に口説かれた?」  ラウムは、唸るような声でなんとか質問した。  すると、囚人は嬉しそうにさらに顔を緩めて、 「藤丸刑事のお知り合いの方ですか!   あの方は本当に素晴らしい人です。  俺は今までいろいろと悪さをしてきたが、あの人はそれを全部許してくれると言ってくれたんだ。  今から罪を償って貧しい人達のために働けば、こんな俺でも必ず天国へ行けるって……」  こりゃいけねえ!  最後まで聞かず、ラウムは急いで牢獄の前から離れた。  怒りと不安で、気持ちが昂ぶってくる。  取材は、とたずねる警官に、急用ができたと、荒っぽく答えを返す。  なんてこった!  大股で一階への階段を駆け上がると、待ち構えたように、藤丸が立っていた。 「どうしたんですか? そんなに凶悪な面相をされて」  藤丸は軽やかに微笑んだ。 「貴様、いったいどういうつもりだ! 俺様の邪魔をすんじゃねえ」  ラウムは老体に鞭を打つように激しく息巻いて、藤丸であるものを睨みつけた。 「どういうつもりもなにも、僕は刑事としての勤めを……」 「ふざけるのもたいがいにしろよ。俺にはもう貴様の正体はわかっているんだ。  貴様は天使だろう。  くだらない神の愛とかでこそ泥野郎をだましやがって!   これ以上邪魔をすんじゃねえぞ。  稲垣は俺の獲物なんだからな」 「とんでもない。  稲垣刑事は天界へ昇るべき人です。  君こそ、さっさと手を引いて地獄へ帰りたまえ。  彼にこれ以上の手出しは許さない」  言っている内容とは裏腹な、とても慈愛に満ちた美しい表情だ。そりゃあ女にもてるわな。  ラウムは、歯ぎしりを立てながら藤丸を睨み続ける。 「なぜ、俺が稲垣を狙うことがわかった?」
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