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「さて、人祓いの結界も済んだことだ。では入るとするか」
そういうと晴明は呪符を取り出し印を結びます。
すると呪符はみるみると姿を変え、金色に輝く蛇の姿へと変わったのです。
大きさにして3m、まさにtheウワバミといった風貌。
「ガブっていかれないんですかこれ……」
「こいつの名は勾陳。京を守る守護精霊だ。知能でいえば並の人間よりは賢いから、攻撃されない限り乱暴なことはせんよ。
美咲も拝んでみればどうだ?一つや二つくらいなら御利益があるかもしれんぞ」
そう言ってケラケラと笑い、晴明は、蛇の頭部にしがみつきます。
すると、蛇は待っていたかのように首を擡げ、自分の主が転げ落ちないように水平を保ちながら晴明の小柄な身体を持ち上げました。
「蛇は苦手か?」
「いえいえ、最近はちょっとした事では驚かないことを心掛けていますから」
「ほう、殊勝なことだ」
「あっ、ちょっと待ってくださいよー」
私も晴明にならって勾陳にあげてもらいました。
トスンと小さな着地音が2つ響いたあと続けて、ドスンと大きな落下音が人のいない庭の中に響き渡ります。
人祓いの結界により静寂の支配する箱庭。
境内は広く、赤いコントラストに照らされ、美しく怪しくもあった。
「そろそろ何をするのか教えてくださいよ」
再び歩き始める晴明に私は問いました。
「そうだな、方違えっては知っているか?」
「ええ、職業柄知識はあります。巫女ですしね」
方違えとは簡単に言うと、陰陽道において悪い方角とされる道を避けて目的地に向かうことです。
特に昔の貴族は、友人や恋人の家に行くためにわざわざ遠回りをしたり、他人の家を経由したりしたといいます。
なぜ?それは、恐ろしいことに悪い方向には鬼が住んでいると言われているのです。
ああ、なんと妖しき平安ファンタジー。
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