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これで話が終わるわけでもなく、後ろから落ち着いた感じの声がしました。
「どこのどなたかは存じませんが、せめて謝礼でも受け取ってくれないでしょうか」
見れば欧米系ハーフの顔立ちの男性が立っていました。年齢は恐らくは三十代後半ほど、慇懃な対応とは別に、鍛えられた体つきが彼が歴戦の戦士である事を物語っていました。
「それに会わせたい人もいるのです。ぜひ紫宸殿にお越しくださらないでしょうか」
紫宸殿とは京都御所において、貴人、皇族などがわりと重要な行事を行う際に使用する場所。いわば、メインホールです。
グイグイと肉迫する暑苦しいイケメンを押し返しつつ晴明は問いました。
「心遣い感謝はする。それはそうと、この国には名を名乗るという習慣はなかったのか?」
すると、イケメンは「これは失礼」と言うと身だしなみを整えました。
「小生は曙と申します。いまは吉野親衛隊の隊長を務めさせていただいています」
そういうと、軽く会釈。
服装が洋風の軍服に近いので、思わず宮廷儀礼の一幕のように映えます。名前はお相撲さんみたいなのに。
私は傍らの晴明に意見を求めます。
「どうしましょうか?」
「美咲が選んだ結果だろ?自分で決めてはいかんのか?」
次に私は奥の勾陳に目をやりました。
勾陳も「どっちでもいいから早くしてよね」とでも言うふうに顔を伏せます。
「では、ゆくのか?」
「う、うむ。ゆくことにしよう」と、私。
「おう、ではゆこう」
曙の提案に甘えて紫宸殿に向かう、そういう事になった。
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