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「ところで女、牛車の用意はないのか? あいにく手持ちが無くてな」
「はい?」
牛車……それは、日本が平安だった(名目上)時代、動力に牛を使った豪華絢爛でアナログチックな車。
「そんな物持ってるわけ無いじゃないですかー」
「となると徒歩でゆくしかないか」
自動車が見えなくなる頃を見計らってショタはヨイショと全身を乗り出します。薄汚れてはいますが、そこそこ値の張った水干姿。時代が時代なら家柄の良い公家か武家の子といったところなのでしょうか。
「で、何処に行くんですか?」
「そうだな、まずは帝の下へ参るべきだろう」
「帝って、もしかして天皇陛下のこと!?」
おどろくことではないと言いながらショタは続けます。
「こう見えても俺は博士でな、一条殿とも知り合いだ。内裏では顔が利く」
何博士だよ、平安博士?と心の中で毒づく私。
ここまで来ると、私の中では迷子を送り届けるというよりも、さっさとこのショタから離れたい、はやく交番に預けて一人になりたい、という思いが増します。
「博士、ね……そう言えば、名前を聞いていなかったわ」
と、適当に切り上げて一刻も早くおさらばしようと画策した私に返ったのは意外な一言。
「俺の名は安倍晴明、博士といっても天文博士だからそこいらの文官と違って占い専門だがな」
これがプロローグ――彼と私の最初の出会いでした。
そのショタ……もとい、安倍晴明は口角を上げ、犬歯をのぞかせたのです。
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