第1章

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 不気味さも何もない。でも人が住んでいた。 そういう哀しさだけはある。風筒がある。本がある。 2つランドセルがある。食器も奇麗にしまってある。  荒れ果てているという感じよりも、疲れたような やつれはてた家という印象を受けた気がする。 一つ一つ、ここに居た人達の遺したモノを記録する。            *  二階へあがった。寝室のようだが、ここが奇妙だ。 ダブルベッドのすぐ横、床に布団が2つ敷いてある。 「ここだ。」  その日。ここで一家心中はあったのだ。 布団に手を触れてみる。まだ温もりがある気がする。 ベッドの傍へ行く。人が寝ているような膨らみ。  両親はここで毒をのんだ。兄弟もその横の布団で 毒をのんで眠った。そういう話を調べてきた。 家は大きいが、火の車だったらしい。  苦しんだのだろうか。苦しんだのだろう。 「ただいま。父さん母さん。兄ちゃん。」             *  私は息を吹き返し、治療され一人施設へ行った。 生きていると、誰もが冷たく。死にたくなるけれど。 死のうとすれば、寄ってたかって助けようとする。  タメイキを漏らしながらでも一緒に来てくれる。 そういう人と出会う機会があったよ。兄ちゃん。 父さん、母さん。私は助かったんだよ。ありがとう。             *  部屋を出て、一階のキッチンを横切る時。 食事していた自分をみた。ピーマンを残してる。 間違いなく私なんだ。間違いなく私じゃないんだ。  家を出て。玄関の前に金平糖を置いた。 兄ちゃんが好きだったから。そして月は明るい。 藪の中で何かが動いている気がした。  でも、問題ない。ここは私の家なんだから。  扉が静かに開く。私は振り向かない。 中から6本の手が伸びる。私は振り向かない。 むしろ心地よく。中へ引きずり込まれて。  扉は元通りにしまる。  死ねばいいんじゃねえ? それって簡単すぎね? 言いすぎなんじゃないの? 死ぬのって簡単なの? だったらやってみせてよ?  ふう。知りたくなかった。
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