第1章

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 死ねばいいんじゃねえ? それって簡単すぎね? 言いすぎなんじゃないの? 死ぬのって簡単なの? だったらやってみせてよ?  ふう。知らなかった。  とある外国の昔。勇敢で間抜けな旅人がいました。 お供には冷静で冷血で、世の常を捨てた小太りの男。 山賊から命を救われてから、旅人に仕えていました。  旅人に名誉は無く。ただただ旅人でありました。 時代の全てがビジネスになっても義を守ろうとして、 お供は虚しい日々に、泣く事も無くただ一つだけ、 タメイキを漏らす事だけ。それだけ知っていました。            *  廃墟の写真を撮り始めて、随分色んな所へ行った。 ダム。工場。炭鉱。ホテル旅館。団地。病院。学校。 そして民家。本来は廃墟になっていても、どうあれ 誰か権利者や管理者の方々がいる、許可は必要だ。  だから私は違法に、不法侵入を行っているわけだ。 しかし辞められないんだ。そこに住んでいた誰かと、 そこで働いていた誰か。そこで学び、診察に来た人。  誰かがそこに居て何かをしていた空気を。  人が居なくなって、誰にも気付かれない建築物。 飾る事無く、自然に戻っていく隙間に魅了される。  不法侵入なので、話さない。奨めない。同時に、 現場の物は持ち帰らない。破壊したりしない。 写真や動画だけを記録する。それだけだ。            *  安全や怪我、野犬対策などして、撮影機材を持ち 深夜の日付が変わる頃に、私は一家心中があったと 噂されている、某廃屋を取材しに行った。  場所は教えられないが、町よりも少し山を登った かなり立派だったと思われる、大きな家だった。 廃屋としては、相当に奇麗な状態であり、まるで。  まるで、昨日まで一家が団欒していて、今夜まで 一気に時間だけが経ち風化していったような。 何か懐かしい気持ちがあった。止まっている時計。  一家心中について事前調査をしたがネットでの、 都市伝説的な内容以外は、ようとしれず。 事実を問うのも怪しい。だが廃屋はこうしてある。  建物周辺は生い茂る藪で一周できなかったが、 月も明るく外からみると、この二階建ては頑丈そう。 玄関の前に立つ。扉に鍵は掛かっていない。  中へ入る。懐中電灯で様子を探る。落書きも無い 奇麗だ。まるで引っ越す為に片付けたような感じ。 ゆっくり、前に進みながら撮影をしていく。
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