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「大丈夫。全部僕のせい。僕の仕組んだことで、僕が悪いんだよ、徹君」
「でも」
「自分の家に、帰りたくないんだろう? 」
「………」
「さ、支度して。ウチにおいで」
神奈川県よりの川沿いに香曽我部の住んでいるマンションはあった。低層階区域なのか高い建物はなく、そのマンションも4階建で、香曽我部の部屋は4階の角部屋だった。といってもひとつの階に部屋は3つしかない。高級マンションだった。
玄関のドアを開けると、小さな絵が数枚ランダムに、でも寸分のくるいもなく計算された間隔をあけて配置されている。
「全部…ネコがモチーフなんですね」
プロ・アマ・名画に問わず全てがネコの絵だった。黒・白・三毛にグレイ、いろんな色合い、種類のネコが壁を彩っている。
「あぁ。キレイだろう、ネコって」
「飼ってるんですか? 」
「いや。ペットは苦手でね」
「そうなんですか? 」
「自分が家にいない間どうしてるか心配で仕事が手につかないだろうと思って。さ、入って」
「はい。おじゃまします」
長谷川は来てしまった。香曽我部の家に。自分でもどうしてそんなことが出来るのかわからなかった。
だが自宅に帰りたくないことは確かだった。
でもここに来てしまったと言うことはカラダを許したも同然だ。本気なのか? と自分に問う。そんなことになって、その後恋人とよりを戻せるとでも思っているのかと。
それとももう諦めているのか――。
長谷川は自問自答していた。
「はい。カフェオレ、空腹かな? 」
「ありがとうございます。カフェオレだけで、十分です」
「何処に座ってもいいから、楽にして」
リビングダイニングはキッチンと一体化されていて、とても広い空間に大きなソファセットとテレビ、アンティークと思われるダイニングテーブルとチェア。
部屋の片隅には本棚と小さなテーブルがあり、リンゴ印のパソコンが鎮座していた。ちいさな書斎といったところだろう。
とても使いやすそうな空間に見蕩れながら、自宅の奇抜さをしみじみと実感した。と、同時に自宅で生活していた頃の恋人の笑顔を思い出し、長谷川の胸が痛んだ。
「徹君? どうかした? 」
「あの…俺…やっぱり」
「怖気づいちゃったかな。僕が…怖い? 」
「そんなんじゃ…ただ」
「ただ。恋人が恋しい? 」
「………」
「今晩だけ、僕が恋人じゃダメかな」
「香曽我部さん…」
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