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「ああ。おかげで魔は自分の中にいたってコトが分かったよ」
「追い払えた? 」
「うん。たぶん」
「たぶん? 」
「でも貴弘がいてくれれば大丈夫」
長谷川さんがニコリと笑う。
そのセリフの重さを、痩せた彼の体が、頬が、もの語っていた。
「コンビニでなんか食べ物買ってくるね、長谷川さん全然食べてないでしょ」
「明日でいいよ」
「だーめ。レトルトのおかゆでも良いから、とにかく食べて」
俺はすっからかんの財布に現金を補填して深夜のコンビニへと急いだ。
「抱いて、くれないのか? 」
「なんか。壊しちゃいそうで」
「かまわないのに」
「そんなわけにいかないでしょう? こんなに痩せて、いったい何キロ減ったと思ってるの」
「計ってないからわからないよ」
「約八キロ。さっき抱えたときそのくらい違ってた」
「凄いな。分かるんだ」
「まぁね。ウエイトトレーニングとかしてるし、重さの感覚は覚えてるよ」
隣に寝ていた長谷川さんの首の下に腕を通すと、自然に彼が俺の肩を枕にしてピタリと寄り添う。
「キスもダメなのか? 」
とにかく甘えたいのだろう。長谷川さんがねだってくる。きっとあの男にエロスイッチを入れられたのだ。
「キスしちゃうとしたくなっちゃうから、ダメ」
「だから…して…欲しいのに」
「俺もしたい。でもダメ」
「なんでっ」
「今日は。あの人とのコトもちょっと許せないでいるから。俺の気持ちが落ち着くまで待って。これでもすごく妬いてるんだよ」
「目を見れば…分かるけど」
あの男のことを思い出すと、ことに長谷川さんとふたりで部屋に入っていった光景を思い出すと、胸が張り裂けそうになる。怒りと悲しみのおり混ざった感情に反応して、虹彩の色が薄くなるのも当然だ。
俺は枕もとのパネルにある照明スイッチを回し、ぐっと部屋を暗くして瞳の色を隠した。
「おやすみ。長谷川さん」
「たかひろぉ。…あ。勃ってる」
「ちょっとっ、なに勝手に触ってんのっ」
「コレ…欲しいな。俺。…貴弘? 」
長谷川さんの器用な手が上下にゆるゆると動く。
「なに誘い上手になってんの、っていうか勝手に大きくしないで」
「かたくなった」
「こらっ…ダメだって。…あっ…あぁもうっ」
結局朝までヤってしまった。
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