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愛ノウ
「これ、あげるよ」
「スケッチブック? なに、こんなに沢山。どうしたんだよ」
それは待ち伏せの証拠品。
「聞かないで、だまってもらってくんない」
「だまってって、オマエこんな高価なスケッチブックばっかり、いったい何処で……あっ」
「なに」
肩がびくりと動いてしまった。もしかして……。
「宇宙堂か!? オマエが香曽我部さんと会ったのって」
(あ~バレた~)
長谷川さんがひいきにしてるお店でもある俺の待ち伏せの場所の名前を言い当てた。
「あ、あぁ偶然ね。長谷川さんにプレゼント選んでて、どれが良いかわかんないから目に付いたの全部買っちゃった」
「こんなに。重かったろう」
「いや…そうでもないよ」
長谷川さんに会えないかと店に行くたびに買っていたなんて言えやしない。
きっと店員にも気付かれてた。誰かを待ち伏せしているのだと。
「あっ」
「今度は何…? 」
「オマエ…まさか俺を…? 」
「………」
「貴弘…」
「他に思いつかなくて、偶然会えそうなトコ」
「なんで偶然なんだよ。家だって学校だって必ず会える場所があるじゃないか」
「だってそれじゃまるで…」
「なんだよ」
「俺が負けを認めたみたいで」
自分から折れるのは嫌だったのだと説明すれば、長谷川さんは昨日よりは良い顔色で優しく微笑んでくれた。
「でも。迎えに来てくれたんだろ」
「部屋があんな状態じゃあ、長谷川さんの緊急事態だと思って」
「うん。来てくれてありがとう。すごく嬉しかった」
ごめんな、俺、弱くて。と長谷川さんが言い足す。
俺はスケッチブックを抱える長谷川さんに近づき、額と頬と鼻先にキスを落とした。
「唇も」
彼がそう言うであろうことはわかっていた。
顔を近づけると互いに薄く口を開いた。柔らかく温かなものをねだり合うようなキスが長く長く角度を変えて何度も繰り返された。
結局何があっても離れられない。どうしようもなく彼に惚れている自分は自覚している。
独占欲から家を飛び出してしまったが、別れる気などもうとうなかった。
「んっ…うぅん…たか…ひろ…」
すっかりスイッチの入ってしまった恋人が、この先をねだって甘い声を出す。
「俺を抱いてくれる? 長谷川さん。それとも気分じゃない? 」
なんとなく、彼に身を委ねたかった。彼に甘やかされて俺のカラダも彼のものなのだと教えたかった。
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