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その反動で俺は、菜月と結婚してこの家に入れて守るというとんでもない方法を提案してしまったんだ。
親同士が冗談半分で約束していたことは知っていたけど、あの事件後、そんな話は一度も出ていなかったのに、俺から言い出すなんて、今となっては赤面ものだ。
何も知らずに嫁いできた菜月を見て、初めて俺は罪悪感を抱いた。
俺は自分の欲求のために、菜月の意志を無視してあんなに若い彼女の人生を独り占めしてしまった。
「自分を大切にしろ」なんてよく言う。そう仕向けたのは俺なのに。
彼女の気持ちが俺に無いのに、手を出すわけにはいかないと思った。
彼女が受け入れてくれたとしても、そんなものは空しすぎるし、彼女を汚してしまうような気がした。
そうして大切にしていたんだ。
俺のほうがずっと長く菜月を見ていたのに、何も気がつかなかった。
きっと菜月が思ってくれる以上に俺のほうが彼女を好きだったっていうのに。
俺はあふれ出る後悔にさいなまれながら、菜月の身を案じ、無事であることを祈りつつ、家元とともに、清華学園へと急いだ。
理事長と森野は、人気のなくなった校内をくまなく探したが、菜月は見つからなかった。そして、学校に到着した俺と家元を、苦渋に満ちた表情で、職員室に案内した。
「なんと……」
家元が絶句した。
そこで目に入ったのは、花瓶が割れ、書類は散乱し、すっかり荒らされた室内だった。
そして、一箇所、赤黒い血の海が広がっていた。
俺は一瞬、最悪の事態を想像した。
まさか、菜月の身に何かあったのでは……。
しかし、必死にその思いをふりはらった。菜月はやつらにとっても大切な存在だ。むやみに傷つけることはしないはずだ。
「室内にはありませんが、廊下の防犯ビデオがあります。ご覧になってください」
理事長は重苦しく告げた。
警備室に向かい、そのビデオを食い入るように見つめた。
3人のサングラスをした男達が職員室へと入っていく。
何かが割れる音が数回聞こえ、しばらくして、抱えられた意識のない菜月と、男達に両脇をかかえられ、その腹部を真っ赤に染めてぐったりとしている東条先生が職員室から出てきた。
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