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「菜月!」
俺は思わず、体を乗り出した。
「この映像からすると、やはり菜月さんに外傷はなさそうだが、あの血の量からして、東条くんの傷が心配だ」
家元がうなった。
「『気』が探知されなかったところを見ると、東条くんは『気』を発する間もなく傷つけられたのか」
後ろで見ていた理事長が深く頭をさげた。
「校内でこのようなことを許してしまい、本当に申し訳ございません……」
その声は悲しみに打ち震えている。
「いえ、私がもっと早く動いていたら、こんなことにはならなかったはずです」
森野もその横で頭をさげた。
「いや、私たちも油断していたのだ」
家元が二人の肩にそっと手を置いた。
「東条くんが意識を取り戻せば『気』を発して居場所を知らせてくれるかもしれない。探査装置に細心の注意を払うよう、斉藤に伝えておこう」
それから校門の防犯カメラの映像も検証したが、怪しい車両は見つからず、どれも送迎や業者など、登録済みの車ばかりだった。
「乗っている者に知られずに、分かれてトランクにでも潜りこめば、出入りは容易かもしれない。念のためここに映った業者に確認を取ってくれ」
「かしこまりました」
家元の指示に森野がメモを手に部屋を出て行った。
俺はもう一度、職員室の廊下のビデオを再生した。意識なく男に抱きかかえられている菜月。
俺は怒りがこみ上げてきて机をどんと叩いた。
俺の菜月に触るな!と叫びだしたかった。
やはり、引き止めておくべきだったんだ。
自分に対する怒りも含めて、とても冷静ではいられなかった。
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