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夜通し、正気道会をあげて、校内の捜索をした。
翌日、翌々日は土日で学校は休みであったため、引き続き皆で手がかりを探したが、めぼしいものは何も見つからなかった。
日曜の昼頃、家元が俺を見つけて近づいてきた。
「智樹、おまえ、あれからほとんど休んでいないだろう。一度家に帰って寝て来い」
俺が一心不乱になって校内を物色しているのを見て、家元が言った。
「こういうときだからこそ冷静にならなければならない。上に立つものが取り乱していたら、皆、不安になるだけだぞ」
家元は父親の顔を覗かせて、やんわりと諭してくれた。
「……わかった」
俺は力なくうなずき、ふっと顔を上げて親父を見た。
昨日から、冷静な判断と明確な指揮でこの場を仕切っている家元である親父。
さすがだな、と思った。俺はやっぱりまだまだだ。取り乱してなりふりかまわず突っ走っている。親父の足元にも及ばない。
足をひきずるようにして、俺は家に戻った。
ベッドに横になっても、不安が胸に渦巻いていて、なかなか寝付けなかった。
もんもんとした中で、おとといの夜の、道場での菜月の姿が蘇ってきた。
あのとき、恐れていたことが起こってしまった。
菜月は、目覚めようとしていたのだ。
やはり、俺には止めることができなかった。
道場での地震のあと俺は、虚ろな顔をした菜月を部屋まで連れて行くと、彼女はすぐ泥のような眠りに落ちていった。
そう、10年前のあのときも、菜月は力なく彼女の母親の側で倒れていたのだという。目覚めた彼女はすべての記憶を失い、そして、俺のことも忘れてしまった。
俺は、成長した菜月の安らかな寝顔を見て、おもわずその頬に触れた。
あんなにも、側にいたい、触れたいと思っていた菜月が、手の届くところにいた。
まだまだ無邪気なままでいさせたかった。過酷な現実から守ってやりたかった。
「どうか、俺のもとに、帰ってきてくれ」
やるせない気持ちのまま菜月を見つめ、そして惜しみながら菜月から離れた。
俺は振り返りつつ部屋を出て、正気道会館の地下操作室へ急いで向かった。そこでは家元と斉藤が道場から戻ってきていて、操作盤を凝視していた。
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