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俺に気づくと、家元が探査装置の結果をプリントアウトしたものを渡してくれた。
「マイナスだ」
苦渋の色を浮かべ、家元が言った。
この探査装置がマイナス数値を出したのは、10年ぶりだった。俺にとっては2度と見たくはないものだった。
「負の、力……」
とうとうこのときがきてしまった。
このままずっと、なかったことにして菜月と生きていきたかったのに。
「ここに表示されたということは、やつらにも気づかれたということだ。彼女がここにいることがわかってしまったな」
家元は厳しい表情で言った。
プラスの『気』を習得してもらえれば、もしかして負の力をおいやることができるのでは、と気休めに考えていた。
しかし、こうなったからには、もう、目をそむけているわけにはいかない。
「菜月に言うよ。それで、一緒に考える。俺たちは夫婦だから」
家元は俺の肩に手をおいた。
「そうだな。菜月さんは、鷹司家の大切な嫁で、今ではかけがえのない家族だ。彼女を助けてやってくれ」
俺は家元の目を見て、大きくうなずいた。
翌朝、窓の外の激しい雨を横目に、目覚めの遅い菜月を迎えに言った。
10年前のように俺のことを忘れていたらと思うと、胸がしめつけられた。
しかし菜月は、くったくのない笑顔で駆け寄ってきた。
俺に会えてうれしい、とでもいうような、俺に勘違いをさせ喜ばせる、いつもの菜月だ。俺は鼻の奥がツンとして思わず泣きそうになってしまった。
俺のもとに帰ってきてくれた。
思わず抱きしめてしまいたくなる衝動を抑えて、食堂にくるよう言った。これから菜月に告げなければならないことは、菜月にとってあまりにもつらいことだ。
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