第一章 失踪者

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   加えて妻と同等か、それ以上に娘を大切にする男である。  女性関係にだらしない訳でも無ければ、相手が美人だから捜査に手心を加えたりはしない。手心を加える限度は、話しを聞く聞かない程度のものである。  そう言った訳で、酒出は話しを聞いてみる事にした。  益子 拓三 五十一歳。  美結の父、拓三はKHオフィスという事務用品メーカーに勤務。そちらの千葉支店で、経理課の係長をしていた。  年齢からして係長とは、少々出世が遅いだろうか。  ひと昔前まで、年功序列が出世における条件の一つであった。無論そうした中にも、社内的な実績や人脈が絡んでいた。  また世の中には、出世を望まないタイプの人間もいる。  酒出こそ、そうした人間の一人である。  勤続二十五年超。仕事上、順風満帆とは言わずとも、地道に勤め上げてきたのだという。  それは、美結の見解ではあるのだが。
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