第一章 失踪者

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   いくら何でも、十日も泊り込んでの仕事とは異常である。  何より、家に帰らなくなる前に、そうした仕事があるという話しは無かった。加えてその期間で、一切の連絡も無いのである。  これはおかしいと、母は再度会社に連絡した。  すると返ってきた答えは、「先の連絡の翌日に、拓三は家に帰った筈だ」というもの。そしてその日から、一週間の有給休暇を取ったと言うのだ。 「当然。家に、帰ってねぇんだよな」 「勿論です。有休の話しだって、私たちは知らなかったんですから」 「親父さんの携帯は?」 「勿論、持ってました。だから、何度も何度も電話したりメールしました。だけど、何も……」 「それから、どうしたんだ?」 「会社の言っていた有休は、その翌日で終わりでした。そうしたら、今度は会社の方からお父さんが出社して来ないと連絡が」  そして美結の母は、その直後に警察へと失踪届けを提出した。
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