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答えを出した。真っ直ぐすずの顔を見て、言った。すずの顔が一瞬だけ曇り、それから、あぁ、やっぱりなという顔を作る。へにゃりと笑って「そっか」と物分かりのいいふりをする。肩が小刻みに震えていることを自分では自覚しているのだろうか。すずは泣かなくなった。昔は悪がき共によくからかわれぴーぴー泣いていたのに、いつの日か泣かなくなった。大人になったんだと思う。それを私は面白くないと思う。私は、何も変わっていないのに。
「……そーだよな、ごめん。変なこと言って、困らせたよな」
昔なら泣いて縋ってきたことだろう。そしてそれを私が宥めて笑えと命令したことだろう。けど、すずはもうそんなことはしない。痛みに耐えるように眉を寄せ、それでも歪に笑い、私を気遣うような言葉さえもかけてくれる。私はあの人にそんなことは出来なかった。ごめん、と言われた瞬間から泣き出して、何も言えずにあの人の背中を見届けただけだった。そう考えるとすずはもう、私よりも前を歩いている。
「じゃ、また明日、卒業式で」
気まずさに耐えきれなくなったのかすずが背を向けてそう言う。待って。まだ伝えていないことがある。私はぐっと窓枠から身を乗り出して、後ろ手で窓を閉めようとするすずの名前を呼んだ。ぴくりと肩が跳ねて、片手をあげる。振り向く気は全くないらしい。でも、それで良かった。この声が届くなら。
「━━今はまだ幼馴染み以上の好きにはなれないかもしれないけど、私はあんたが誰よりも好きで大切だから、もしかしたらあんたが望む関係になれる日がくるかもしれない。だから、だからっ」
だから。
「私のこと諦めるなんて思うな!私のことが好きなら惚れさせてみろ!」
叫ぶようにそう言えば、すずは振り返った。大粒の涙を流しながら私へと顔を向け、それから泣き崩れるに近い顔で笑う。
「……横暴にも程があるだろう。仰せのままにお姫様」
どうやら私も彼もまだまだ子供で、肝心なところは何も変わっていないらしい。私はニッと笑う。そこが好きなんでしょ? うん、好きだ。なんてまるで恋人同士のような会話を交わしながら、遠い未来に想いを馳せる。
どうか、私を好きだと言ってくれたこの人を好きになれますように。
だから、それまでは、まだこのままで。
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