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それから暫く私は携帯を眺めていた。理由はひとつあいつにいい加減返事を返そうと思ったからだ。別に兄貴に言われたからじゃない。私もそろそろ腹をくくらなきゃなぁと思っていたから、だから兄貴は関係ないのだと誰に言うわけでもない言い訳をしながら、メールアドレスを引っ張りだし、本文に文字を打ち込む。
余談だが携帯はあいつとお揃いだったりする。私が白であいつが黒の色違いの機種だ。二人揃って高校祝いで買って貰い、二組の家族で携帯ショップに行ったことを今でも鮮明に覚えている。だから必然的に最初に私の携帯に入った連絡先はあいつのだった。そして、あいつも私が初めてだった。家が隣同士だしベランダから掛け合いをするのだから要らないんじゃないかと私の両親とあいつの両親にからかわれたが、何故私は、頑なにもあいつのアドレスを欲しがったのだろう。
考えてみればあいつとお揃いのものは沢山ある。こじつけに近いかもしんないけど名前だってお揃いのようなものだ。凛と鈴。同じ『りん』同士だから私はあいつのことをすずって呼んでいるけれど、こう考えると私達のなかに共通じゃないものはあまりないのかもしれない。
『窓開けて』
今までの迷いが嘘だったように私は、打ち込んだ文字を送信する。それから拒絶するように閉めきっていたカーテンと窓を開けた。久し振りに開くそこから見える空は陽がくれた夜だった。三日月に欠けた月が遠くで佇み、星がキラキラと輝いている。ややあって向かいのカーテンが開き、あいつが姿を表した。
お風呂あがりなのか髪が濡れており、タオルを首に引っ提げている。格好も随分と薄着で下手をすればズボンを履いていないなと長年の経験から容易に予想できてしまう。別に窓枠で隠れているからこっちからあいつの下半身は見えないからどうでもいいけど。窓が開いて、あいつが顔を出す。今更だが少しだけ緊張してきて、思わず目を逸らした。
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