二月十六日

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「失恋確定の恋は確かに辛いし悔しいし苦いだけです。たまに与えられる甘さもすぐに塗り潰されて、消えてしまう。無意味なものかもしれません。でも、無価値ではない。叶わなくてもちゃんと価値はあるんです。そう思ったら可哀想じゃないですか、この気持ちが。言わないまま諦めてしまうこの気持ちが、言わなきゃ何も変わらない。伝わらない。それに」 ちらり、と道重は俺を見る。それから胸元のチョコを見て、空を見て、にっこりと笑った。その笑顔が何を意味するのか分からず、俺は戸惑う。道重は笑顔のまま、それにと繰り返した。それと同時に大事そうに包み込んでいたチョコを右手に持ちかえ、振りかぶる。 「なに、し「それに叶わなくても振られてもきっとカッコ悪くないんです」」 道重の言葉と共にチョコが窓の外へと飛び出す。青色包装紙、白いリボンで包まれた小さなそれが本物の青空と同化して、綺麗だと目を見開いた時には重力に逆らって落下する。下を覗き込むまでもなくチョコが落ちた。告白するつもりで、その人の為に想って作ったんじゃなかったのか? 道重を見ると横にはいなかった。後ろを振り向くと彼女は笑顔のまま後ろ手で手を組んで立っていた。 「告白、するんじゃなかったのかよ?」 「いいえ、しません」 「お前、言ってること無茶苦茶だぞ」 「そうですね」 「言わなきゃ想いが可哀想なんじゃないのかよ」 「だって、私の好きな人は今、泣いてるんですもん」 にっこりと道重は笑ったままだ。でも、その笑顔が変化したことに俺は気づく。道重が、無理して笑っていることに気付く。 「泣いている貴方に告白なんて出来ませんよ」 道重はそう言った。貴方に告白、と言った。頭のなかが真っ白になり、考える。道重の好きな人は。
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