二月十六日

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「葉月くんが安西さんのこと大好きなの一年生の頃から知ってます。葉月くんが今、坂口先生にチョコを渡しにいっている安西さんのことを想って不安になっていることも、諦めようとしていることも、心が曇って泣いていること━━知ってますよ」 「……道重、俺は」 「だから告白なんてしません。本命チョコなんて渡しません。好きな人を想って泣いている貴方にはこの義理チョコで充分です」 そう言って道重は胸ポケットから何かを取り出すと俺の手を取った。手のひらに乗ったのはチロルチョコだった。本命とは思えない立派な義理チョコだ。 「大丈夫。想いは無駄にならないから。叶わない恋はカッコ悪くないです。それとも、葉月くんの目には私はカッコ悪く映っちゃってますかね」 「そんなことねぇよ」 俺はゆるりと首を振る。 「お前は、俺が今まで知り合ってきたどの女よりも格好いい」 「━━はい、今度は葉月くんの番ですよ」 道重が下を向き、後ろにまわるとぐいーっと背中を押してきた。俺の番という言葉の意味は、もう分かりきっている。ここで拒むのは今更であり、勇気を振り絞った道重に対して失礼になるのだろう。 「安西さんなら裏庭の方にいましたよ」 「みち「謝ったら許しませんからね」」 振り返るとやっぱり道重は笑顔だった。目元が微かに光っているのを見ないふりして、俺は頷き、駆け出す。大好きなあの子に想いを伝える為に。
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