二月十六日

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現在俺の気持ちなんて微塵も気付いていない恋する乙女は脳内でそれはそれは綺麗な花畑を耕し、夢見ているのだからムカつくことこのうえない。俺を見ろなんてどこかのドラマでそんな台詞があったが、それを言える勇気も俺にはなく、終わることのない悪夢のような日常が継続している。 付き合ったとか振られたとか誰が誰を好きだったとかそんな会話でごった返しになっている教室は俺の憂鬱な気持ちとは裏腹に楽しそうで、ふわふわとした甘ったるい空気が充満している。噂話━━それもこの時期の恋話に普段から煩い女子は目がないらしく、ずっと喋ってはきゃははと甲高い声で笑い転げている。何がおかしいのか時折、脚をばたつかせて腹を抱えるもんだから、太股が丸見えで、パンツが見えそうだった。そして、何人かの男子の視線を集めているが至って気にしていないようである。 帰りたい。率直で素直な感想を述べるとまさにそうだった。何度か教室から出ようと思いはしたのだが、幼馴染みの少女に終わるまで待ってろと言われた為、動けない。無視して帰ることもそりゃ俺も意思のある人間なので出来はするが、彼女が万が一振られた場合(というよりほぼ間違いないと確信しているが)のことを考えると軽率な行動が取れなくなる。これは別に恋で盲目になっているとか身内贔屓のようなものではなく、ただの事実として俺の幼馴染みは可愛い。泣いて戻ってきたら確実に誰かに慰められてしまう。そんなおいしいポジションを易々と奪われてたまるか。それは幼馴染みである俺の仕事だとかなんとかそんな最低なことを考えると自然に腰をあげるのも億劫になってくるというもんだ。 「はーづき」 とてて。ガサガサ。と二つの音を奏でながら永田玲音(ながたれお)がやって来た。爽やかフェンスの彼は両手に紙袋いっぱいになったチョコの山を携えている。漫画みたいな奴だなと思っていると横からクラスメイト達の不服が文句として飛び交ってくる。永田はそれを華麗に無視して、前の席の無人の椅子に腰掛けた。紙袋を横に置いて、二つほど取り出す。
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