二月十六日

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「食おうぜ」 「なんだよ、1個も貰えなかった俺に対する当て付けかこの野郎」 「まーな、俺はほら、お前とは違って格好いいし優しいし格好いいし、やるよ」 「自分で言うなよ、勿体無い。チョコに罪はないから貰うけどさ」 綺麗にラッピングされた箱を受け取り丁寧に破いていく。俺が貰った訳じゃないけど、こーゆう贈り物みたいなのの包装紙をビリビリ破くのはなんだか失礼な気がする。ま、受け取った張本人は悪びれた様子もなくラッピングをビリビリと破いていた。俺に横流しした時点でこいつは失礼な奴なので何も言わない。ピンクの包装紙と赤いリボンで彩られた中身はトリュフチョコだった。丸みを帯び黒と白が三つずつ横並びで揃えられている。透明の蓋を開けて、黒から口にいれる。 「苦い」 「んー?ビターチョコ?」 「そうみたい。美味しいけど」 コロコロと噛み砕くことなく口のなかで転がして味わう。じんわりと溶けてくるチョコはほのかに甘く苦い。昔はビターチョコはただ苦いだけで美味しいとも思わなかったし、食べたいとも思わなかったのだけど、気付けばチョコを買うときは決まってビターになっている。甘いのが嫌いという訳ではない。むしろ大好きだ。女子以上に甘味を愛しているくらい好きだ。けど、チョコだけは別だった。 「そーいえば安西は?まだ帰ってこねぇの?」 「うん、連絡もない。多分、いつ言おうかとかタイミング窺ってんじゃないかな。あいつ、行動力はあるけど直前に尻込みするから」 物陰に隠れて坂口の行動を窺っているあいつとか何? って聞かれてなんでもないと逃亡するあいつの姿が目に浮かぶ。実際、去年もその前もそれで諦めて戻ってきていた。そしてそのチョコは俺が頂いた。ビターチョコが嫌いなあいつは必ずミルクチョコで手作りするのだが、俺にはいつも苦く感じられた。それは多分、あいつの落ち込みようと俺の失恋確定の恋心のせいだと思う。
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