二月十六日

7/13
前へ
/15ページ
次へ
走るように飛び出して暫く経ってから歩みを緩め、窓に近付く。開ききった窓から入り込む冷たい風が火照った頬を優しく冷やし、気持ちよかった。旧校舎の入り口に近いここは人気が少なく、放課後ということも手伝って今は俺以外に誰もいない。教室の喧騒がまるで嘘のようにひんやりとした静かなこの場所は少し寂しく、居心地がよかった 走ったせいか恋心がバレていたせいか、多分その両方だろうバクバクと心臓が高鳴っている。身体中に血液がまわっている感覚が主張され、なんだか気持ち悪い。告白しろとは誰も言わなかった。いや、飛び出してきたから言われなかっただけで、もしあの場に留まっていたら言われていたかもしれない。三年間。三年間、あのクラスメイト達と同じ時間を過ごしてきた。そして、三年間、彼ら彼女達は茶々をいれることなく俺と幼馴染みの関係を見ていたのだろう。 「……あいつらの目には俺がどんな風に映っていたんだろう」 滑稽だったのだろうか。報われない失恋確定の恋をしていると心のなかとは言わず陰で馬鹿にしていたのだろうか。あいつらがそんな奴等だとは思わないけど、分からない。何を考えて何を思っているのか分からないから他人なのだ。 「……最低だな、俺」 ポツリと呟いて空を扇ぐ。憂鬱と不安と疑心で曇る俺の心とは裏腹に空は綺麗な晴天でなんだか泣きたくなった。やるせない。あの時、小学生の頃に告白したときに諦めていれば良かったんだ。或いは中学の時、一度グレた時に拒絶していれば良かった。或いは高校を別にしていれば、けど、そんなもしもの選択は二度と現れない。 「葉月くん?」 控えめな声がして振り返る。そこにいたのは同じクラスの道重玲奈(みちしげれな)だった。一度も染めたことはないのであろう綺麗な黒髪を横で縛り、流している彼女は不思議そうに小首を傾げている。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加