二月十六日

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「私の片想いはずっと片想いのままなんです。彼の目には私は映らない。好きな人がいますから。告白されてもきっと困るだけで、断られる恋なんです」 道重は続ける。 泣きそうな声でも悲痛を彩った声でもなくただ明るく。 「それで去年まではずっと渡すのをやめようって悩んでいて、でも、今年はもう最後だからって、告白しようって決めてたんです」 道重は笑う。 照れたようにはにかみながら。 その笑顔は恋する乙女の甘いそれでなく決意を固めた儚げなもので。 俺は、 「……それが断られるって分かってる想いでも?」 俺はそんな彼女の心を傷付けるような言葉を口にする。勿論、傷付けるつもりではない。本当に素直に思った疑問だった。彼女と俺の境遇は多分似ている。完全に同じではないけど、そもそも人の気持ちが他人と完全に一致することは不可能に限りなく近いのだろうけど、それでも共感や重ねることは出来る。だから聞いてみた。まるで、彼女を自分の心のように。道重は窓枠を掴まえ腰を引き、腕を伸ばして伸びをする。 「想いでもです」 「振られちゃうんだよ?」 「ですね」 「好きだって言っても、その人の一番にはなれないんだよ?」 「そうです。無理です」 「じゃ、なんで?なんで、道重は告白しようと決めたの?」 「好きだからです」 にこぉーっと道重が笑う。笑いながら、姿勢を正し胸に手を当てる。チョコレートを下にして両手で覆うように、胸を押さえる。
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