温めてやるから

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けれど。 家に着いて玄関のドアノブに手をかけたところで、 「凛っ!」 その声と同時に手首を掴まれた。 それが学だとわかったから、その手を振りほどこうと腕を振る。 けれど、学の力に敵うわけがなくて。 「何で逃げんだよ」 学は痛いくらいに手首を掴んだまま不機嫌そうな声でそう言うけれど、学校でのあんな場面を見てしまったら、あたしには逃げるという選択肢しかなかった。 「離、して」 ちゃんと声に出したつもりだったのに、実際出てきたものは今にも消えてしまうようなか細いもので。 学にはちゃんと届いたのかすらわからない。
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