第1章 ある雨の日のこと

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「まだ未羽ちゃんは起きてきてないの。ソラちゃん、起こしてきてちょーだい」 眉を少し下げ、申し訳なさそうに頼む早苗。 もちろん、空斗は断ることもせず素直に了承し、二階への階段を上がり未羽の部屋へと向かう。 未羽の部屋のドアを開けると、部屋の所々にファション雑誌などが散らばってはいるが、概ね清潔といえる女の子らしい部屋が広がっている。 白いシンプルなベッドに薄ピンク色の掛け布団にくるまるようにして寝ている、まだあどけない表情を残し幸せな寝顔をしている少女が空斗の妹の未羽である。 空斗はその光景に微笑ましく思いながらも、仕方がないと思いながら優しく起こす。 「未羽?朝だよ、起きろー」 「…ふむぅぅ…ん~…」 軽く寝返りをうつだけで、いっこうに起きる気配はない。 「よし…起きる気がないのなら、最後の手段だっ!」 一気に未羽がくるまっていた薄ピンク色の掛け布団を引き剥がすと、コチョコチョの刑を執行する。 絵面的にはちょっとアレだが、これが日暮家の伝統であるから問題ない。 「ちょっ!アハハハハハハハッ!やめっ…ブフッ!コチョコチョはッ!」 女の子らしからぬ笑い声だが、コチョコチョされれば誰でもこうなることを未羽の名誉のために言っておこう。 「起きたか?」 コチョコチョの刑をいったん止め、空斗が手をワキワキさせながら未羽へと問う。 未羽はコチョコチョが怖いのか、ハキハキとそれはもうどこかの軍人のように返事をする。 「はいっ!起きました!」 「うむ、よろしい!…母さんが下でメシ作って待ってるから早く来いよ?」 そう言い残すと、空斗は未羽の部屋をあとにする。 この後、学校の準備やらなんやらを済ませた空斗と未羽は朝食を食べながらいつものウェザーニュースを見ていた。 「そーいえば、父さんいないな。仕事?」 「あ~、ソラちゃん達には言ってなかったわね~。あの人、今日の朝早くから仕事の関係で出張だってー。カナダに」 「「カナダ!?」」 空斗と未羽が同時に驚きの声をあげる。 それもそのはず、まさか父親が海外出張するなんて事前に聞いていなかったし、出張することも稀だった。 「カナダに出張ねぇ~…。お父さんも大変だわー」 まるで他人事のようにつぶやく未羽。 まぁ、海外出張に行ったって死ぬ訳じゃないし、家族の反応なんてこんなもんだろう。
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