第1章

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「その別荘の場所はわかりますか?」 「えーっと、そうですね、確か、東条さんと親しかった会員が遊びに行ったという話を聞いたことがありますので、聞いてみますよ」 「ありがとうございます。お願いします。それと、まだ理由は説明できなくて申し訳ないのですが」 「このことは他言無用ですね。智樹さんの頼みですから、お任せください」 澤田さんが言葉を引き継いで言ってくれた。 「すみません、お手数をおかけします」 そう詫びてから電話を切り連絡を待つことにした。 表立って内部の者を疑うわけにはいかないため、何か証拠がでるまでことを荒立てるわけにはいかない。 それに、これは俺の思いつきでしかなく、本来なら東条先生も被害者と見るべきなのだ。 しかし、この小さな引っ掛かりが気になってしょうがない。水面に小石を落としたような波紋が胸の中に広がっていった。 東条先生の別荘の住所がわかったという連絡を受けて、俺は長野へ向かう新幹線へと飛び乗った。 確信があるわけではなかったが、今はほんの少しの不審点もつぶしていきたいという思いだった。 駅からタクシーに乗り、運転手にその住所をつげた。 本当は澤田さんに協力を仰ぐのが一番いいのだが、確かな証拠もないのに、正気道会の中の人間を疑っているということを知られたくなかったため、仕方が無い。 タクシーは木漏れ日の落ちる林道をしばらく走っていった。別荘らしき建物が点在していたが、緑が濃くなるにつれて、その間隔は大きくなっていく。 しばらく木々以外何も見えなくなっていたころ、運転手が言った。 「その住所だと、あの建物ですね」 指を指す先を見ると、木々の間にかろうじて家屋が見えてきた。 「じゃあ、ここでいいです」 「メーターが上がったばかりだから、目の前まで行きますよ」 「いえ、大丈夫です、ここで」 そう言うと、運転手はけげんな顔をして車を停めた。 料金を支払いタクシーが引き返していくのを見送ってから、俺は歩き出した。 100メートルも行かないうちに、別荘の正面まできて、立ち止まって様子を伺った。
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