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きぃ…
かすかにブランコの揺れる音がした。
つられて目を向けたら、ふぅちゃんがいた。
途方に暮れた顔をして、ブランコに座っている。
なんで?
ここはふぅちゃんの通勤路じゃない。
オレだってたまたま通りかかっただけだ。
音がしなかったら、視線を向けることさえしなかった。
冬の夕暮れ。
節分は過ぎたけど春はまだ遠くて、しんしんと夜と一緒に寒さが迫ってくる。
きぃ…
オレ達はもういい大人で。
迷子になんてならない歳だし。
ましてやふぅちゃんは、子供のころから絶対にこんな顔しなかった。
オレが困らせても、他の誰かに困らされても、自分が迷子になった時だって。
絶対何とかするって顔してたし、『だからどうした?』っていう勢いだった。
なのに。
きぃ…
小さく揺れるブランコ。
ふぅちゃんは、ホントに途方に暮れてますって顔で、そこに座ってた。
仕事用のかばんと紙袋が一つ、足元に置かれてる。
ホントはそっとしておいた方がいいのかもしれない。
こんな顔絶対に他の人に見せない人だから、オレにだって見られたくないのかもしれない。
でも。
オレはいやだ。
ふぅちゃんが一人で、こんなに寒いところでこんなふうに途方に暮れているのなんて、耐えられない。
だからずかずかと近づいて、ブランコの鎖を握るふぅちゃんの手を、上から握った。
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