第1章

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きぃ… かすかにブランコの揺れる音がした。 つられて目を向けたら、ふぅちゃんがいた。 途方に暮れた顔をして、ブランコに座っている。 なんで? ここはふぅちゃんの通勤路じゃない。 オレだってたまたま通りかかっただけだ。 音がしなかったら、視線を向けることさえしなかった。 冬の夕暮れ。 節分は過ぎたけど春はまだ遠くて、しんしんと夜と一緒に寒さが迫ってくる。 きぃ… オレ達はもういい大人で。 迷子になんてならない歳だし。 ましてやふぅちゃんは、子供のころから絶対にこんな顔しなかった。 オレが困らせても、他の誰かに困らされても、自分が迷子になった時だって。 絶対何とかするって顔してたし、『だからどうした?』っていう勢いだった。 なのに。 きぃ… 小さく揺れるブランコ。 ふぅちゃんは、ホントに途方に暮れてますって顔で、そこに座ってた。 仕事用のかばんと紙袋が一つ、足元に置かれてる。 ホントはそっとしておいた方がいいのかもしれない。 こんな顔絶対に他の人に見せない人だから、オレにだって見られたくないのかもしれない。 でも。 オレはいやだ。 ふぅちゃんが一人で、こんなに寒いところでこんなふうに途方に暮れているのなんて、耐えられない。 だからずかずかと近づいて、ブランコの鎖を握るふぅちゃんの手を、上から握った。
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