1人が本棚に入れています
本棚に追加
ある大都市の地下には、大きな水路が存在する。その水路の存在理由は、大都市の洪水対策であり、大雨が降ったとき、その水路に水を流し込み浸水を防ぐことである。
そのため、晴れた日は雨水は無く、真っ暗なコンクリートの水道管である。しかし、雨が降ったなら、そこに雨水が流れ込み少ないなりにも水の道が現れる。
そんな、あまり綺麗とは言いがたい水道管の中をある女は歩いていた。
前日の大雨で、水路には足首まで水があり、女とは逆方向に流れていた。そんなことを我関せずに、使い古したブーツで進んでいく。そして、慣れたような足取りで枝分かれした細い水路に入る。灯りの無い水路には、女のもつペンライトの光と、申し訳ない程度に届く月明かりだけで、真っ暗な闇が広がっていた。
女は細い水路の奥へと進み、ある水路の前に立ち止まった。その水路は人一人入れる程度の大きさしかなく、女がいる細い水路の真ん中に位置していた。その水路は他とは違い、濡れていない、そして奥から明かりがこぼれていた。
女はペンライトを口に加え、その小さい水路に入る。赤ちゃんがハイハイする様な姿勢で進み、光がこぼれるところをドンドンと叩く。
その音に返しが来るまで、辺りからは水の流れる音しか聞こえない。バコっという音と共に、女の目の前が光であふれた。
そして聞こえたのは、緩い口調の男の声。
「…姐サンじゃないですか。何でここから。」
少しあきれたような言い方で男が女に言う。
「んー、気分かな。まぁ、地下に用があって、わざわざ上に上がるのも面倒で。」
「あー、なるほど。…リーダーは奥の部屋にいます。じゃぁ、オレはこれで。」
男は女を中に招き、逆にそこから出る。
「あれ、もう用は終わり?」
「ええ、定期連絡だけですから。では、また。」
そういって、壁のような扉を水路の方から閉める。女は閉まったのを確認して、中を見渡す。そこは、どこにでもある家のなかのようだ。ただ、円い筒のように壁と天井があるだけ。後は家具や雑貨がシンプルなりにも並んでいる。
「……奥の部屋、だっけ?」
そうひとりごちて、女は着ていた皮ジャンとブーツを脱ぐ。因みに、女が入ってきたところは玄関のように、コンクリートむき出しで、窟を脱げるようになっている。
最初のコメントを投稿しよう!