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我が物顔で中に入り、奥の部屋足を進める。
「……レーン?」
ある部屋である名前を呼び、頭だけ覗くように傾ける。
その部屋は間接照明がひとつオレンジっぽい色が仄かにあるだけで、薄暗くあまり見えなかった。しかし、女の呼び声に反応して、影が動く。
「―――ユイ?」
掠れた低めの声が女に向けてかけられる。
「起こしたね、ごめんなさい。」
「いや、起きてた。どうした?」
「特になにも。近くに来たから、顔でも見に行こうかなって。」
「……仕事か?」
「まーそんなところ。レンは?特になにもなし?」
「あぁ。…捜査官が彷徨いてるくらいしかない。」
「相変わらず、ね。」
「相変わらず、だ。……気を付けろよ。」
男の言葉に適当な返事を返し、女はキッチンへ。そして、見付けた自分のマグカップに、お気に入りの喫茶店で買ったその店のブレンドコーヒーを淹れる。
「んー、良い薫り。」
「………おい、聞いてるのか?」
「聞いてます聞いてます。ワンちゃんには気を付けろってことでしょ?それこそ、相変わらず、よ。」
「…心配なんだ。」
女の適当な返しに苛立ったのか、男が真剣な顔をして女に言う。それに、女は悲しそうに顔を歪めた。一瞬で元の顔に戻し、男の顔を見る。
「大丈夫。見付からないし、捕まらない。それに、捕まってもここのことは言わない。」
にっこり笑って、女は男の横を通り抜け定位置であるソファに座る。そして、男を見て自分の横の空間をポンポン、優しく叩いた。
はぁとため息を吐いて、男はその横に気だるそうにして座った。
それが、二人のいつもの時間の始まり。
ここから始まるのは、曖昧な二人の優しく穏やかな、甘くて少し切ない、そんな空間。
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