第1章

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 苺大福を見ると、思い出すことがある。  初恋の女の子のことだ。  子供の頃、僕は都会とはほど遠い、田舎に住んでいた。東京なんか行こうと思ったら、新幹線を使わなきゃいけないし、当時中学生だった僕には都会は遠い世界だった。  小学生の頃は隣にさよちゃんという女の子が住んでいた。さよちゃんがお父さんの仕事の都合で引っ越すまで、僕らはよくいっしょに遊んでいた。幼馴染というやつだ。親同士も仲が良かった。僕には年の近い妹がいたのだけど、さよちゃんは一人っ子で両親も共働きで、今思うと彼女も寂しかったのだと思う。よく家に来ていた。妹もさよちゃんによく懐いていた。  田舎の小さな町の、小さな小学校の、小さな教室。1学年で23人しかいなかった。当然クラス替えなどなく、持ちあがりだったから、僕とさよちゃんはずっと同じクラスだった。クラス内で仲間割れがないわけじゃなかったけど、クラス全体としては仲のいい方だった。さよちゃんと僕が学校で仲良くしていても、クラスのほとんどが幼稚園から知っていて、幼馴染みたいなものだったから冷やかされることもあまりなかった。  さよちゃんはどちらかというと大人しい方で、友達はいたけどクラスで目立つ方ではなかった。読書と折紙が好きで、幼いながら連鶴を作れるほど折紙は上手かった。みんなで紙で飾りを作る卒業シーズンが彼女がクラスで一番活躍するときだった。大人しいけど、芯が通っていていつもニコニコしている子だった。  ある日。両親が遅くなるということで、さよちゃんは家に来ていた。母さんが「さよちゃんのお母さんがくれたのよ~これ東京の有名な大福屋さんのなのよ!!」とウキウキしながらおやつに出してくれた苺大福を、僕とさよちゃんと妹の三人で食べていた。  僕は苺大福にこだわりがある。まず粒あんは許せない。できれば白こしあんが好ましい。そして苺は酸っすぎず、甘ずぎず、あんと皮とよく合ったものでなくればならない。この苺大福は僕の好みにぴったりあった。  ただ一つ気になることがあった。さよちゃんは美味しいものが大好きで、物を食べるときはいつものニコニコがさらに増す。今日は珍しくさよちゃんが暗い顔をしていた。  「ねぇ」  心配しているとさよちゃんが話し出した。  「私、転校するんだって」  
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