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愕然とする視界で、大きな拳が振り下ろされようとしているのが見えた。いつもは早く見える拳が、今は遅い。
ゆっくりな時間の中、僕の頬にあと少しで拳が届こうとしてーー。
『おにいちゃん!』
『えーー』
小さな壁が目の前を覆ったと思ったら、ガツンと鈍い音が耳に聞こえた。苦痛に耐えるかのように、息を飲む声がする。
なにしてるんだーーそう言いたいのに、衝撃の大きさに声が出ない。
チッと苛立った舌打ちとともに、邪魔なんだよ!と怒鳴り声が聞こえた。すぐに、また大きな拳が振り下ろされようとしているのが見えた。
それでも、目の前の小さな壁は消えない。
ーーこのままでは危ない。そう思ったら、身体が動いていた。
拳が振り下ろされる寸前で、小さな壁を後ろから引っ張った。小さな壁は消え、獲物を失った拳が空を切るのが見える。
だけど、安心なんてする猶予はなかった。怒りに顔を真っ赤にさせ、更に感情を高ぶらせた鬼が次の攻撃へと移ったからだ。
今度は長い足が襲ってくるのが見えてーー動こうとする気配があったものを掴んで背中に隠し、自分でもわけがわからないまま前に出た。
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