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このままでいいと言った俺に対し、修一が拗ねた様に唇を尖らせた。今日、二回目。マジで奪ってやろうかな
「……なんかさ、距離がねえ?前はもっと寄りかかってきてたじゃん」
「いつの話してんだ。もう子供じゃないんだから、これ位が普通だろ」
「そうか?さと、ソファーから落ちそうじゃん。いいからもっとこっち来いって」
「いや、俺、汗かいてるから」
「何言ってんだ。風呂上がりだろ?シャンプーの匂いだってするし」
「なっ……!」
ほら、と言って修一は俺の髪に顔を埋めた。すんすん、と、確かめる様に動く鼻先。二人を包む空気に、ほんのりと危険な、香りが混じる
そのまま腕を肩に回されたかと思えば、そのまま掴まれ、修一の方へ引き寄せられた
途端に近くなる、お互いの距離。僅か、5cm
何が起こったのか、一瞬わからず思考回路は停止した。肩に触れた温かい感触と、ふわりと鼻を掠めた、嗅ぎ慣れた匂い。どれもが、俺が必死に守っていた領域を侵していると告げている
ちょ……待て、ちょっと待て
近い近い近い
匂いがっ……こいつの、匂いがっ……!
チカチカと目の奥で火花が散り、目眩がして咄嗟に修一の洋服を掴んだ。脳みそまで蕩けてしまいそうな、甘ったるい匂いで頭がどうにかなりそうだ
修一の匂いは、俺にとっての媚薬だ。或いは麻薬、或いは麻酔薬とも言える
動けなくなる上に、こんなにも、自分の欲を駆り立てる。全身が痺れて、感覚なんて全て奪われて、ただただ、酔いしれる
ヤバい。クラクラする。離れたいのに、手に力が入らない
いつこの心臓の鼓動がバレても仕方ない位、近い距離。こんなにドキドキしてんの、バレたら軽くしねる
本来の友達の距離って、こんなに近かかったっけ
「……っ……突然、触るな」
「もー、さとってほんと触られんの嫌いだよなあ」
至近距離に居る修一が喋る度、呼吸をする度に俺の耳元に息がかかって、堪えきれずに肩に触れていた修一の手を退かした
先程と同じ様に距離を取って、顔を見られない様に腕で隠す。もう、潔癖でも何でもいいから、とりあえず離れろ
さっきまで触れられてた、肩が、異常な程に熱を帯びている。本当に、心臓の音、うるさい
「あとさ」
「何だよ」
「酒弱いのな。もう赤い」
「うるさい。顔見るな」
お前の所為だ、バーカ
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