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「……きろ、…………起きろ、修一」
「う……ん……」
「お前、今日一限からじゃないのか?」
「ん……」
「お前起きる気無いだろ」
朝、俺は肩を揺さぶられて少しずつ意識を浮上させた
重たい瞼を薄っすらと開け、定まらない視点を彷徨わせれば、仕方ないな、と言った風に溜息を漏らすさとが視界に映った
ああ、さとに起こされてんのか、俺。そんな事を思ったが、まだ眠気の方が強い俺はもう一度目を閉じる
「……起きないお前が、悪いんだからな」
俺が心地よい睡魔に身を委ねようとしていると、次の瞬間、不意に頭に温かいものが添えられて
冴えない頭でも、それがさとの手だという事だけはわかった。それでも眠気が勝る俺は、されるがままにその行為を受け入れた
さとの手は俺の髪をくしゃりと撫でて、そのままゆっくりと俺の髪をすいた。その手はまるで壊れ物でも扱う様に優しくて、繊細で
指先が肌に微かに触れる度に、肌に直に触れない指先が焦れったくてもどかしさを感じてしまう。何とも、曖昧な触り方だ
「壁なんて、こんなにも容易く、越えられるのに……」
遠くで、そんな言葉が聞こえた気がした
壁って……何の事だろう。そんなもの、ここにありはしないのに
重たい瞼を再び押し上げると、視界には先程同様、さとの顔が一番に飛び込んできた。でもさっきとは表情が全然違って、寝起きながらに驚かされた
細められた目は、どこか慈しむみたいに柔らかく、俺に向けられたその視線に、大事にされている様な感覚さえも覚えた
これはまるで、視線の先に居る相手に、恋してるみたいな。そんな風に思わせてしまう目だ
慈しむ様に、でもその中に薄っすらと熱っぽさを孕んでいて。瞳の奥底に潜む熱は、見ているこちらが目を逸らしたくなる程に熱くて、底が見えない
その視線の先に居るのは、紛れもなく俺自身で
さとは俺が起きた事には気付かないらしく、ずっと頭を撫で続けていた。この表情は多分、俺が起きてる時は見れない表情だろう
その事に気付いた瞬間、俺は身体の奥底がじんわりと熱くなるのを感じた
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