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「あっ、あのっ……!宮路先輩」
授業を受けていた教室を出て帰路に立とうとする俺の足を止めたのは、少し高めの、しかしはっきりと男だとわかる声だった
聞き覚えの無い声だったが、自分の名前を呼ばれた気がして振り返るとそこには見慣れない男子生徒が立っていた
目線が随分下にある事からも、恐らく身長は165㎝あるか無いか。男にしては華奢な身体付きだ
「ん?えーと、俺、だよな。なに?」
先輩と呼ばれたから後輩である事は間違いないが、俺は目の前の彼の事を知らなかった。俺が何故面識の無い相手から話しかけられたのかと疑問符を頭に浮かべれば、合わさった視線を外され、伏せ目がちに顔を背けられた
「少しだけ、お時間をいただけないでしょうか」
「いいけど、なに?」
「えっと……ここじゃ、ちょっと……」
震えた声が、少しだけ時間をくれと頼んできた。そして、ここではなく、別の場所で話がしたいと
更に視線を下へ向ければ、ギュッと握り締められた拳が目に入る。その拳が震えて見えたのは、多分気のせいじゃないんだろう
一向に上げられない顔も、合わない視線も、この今にも裂けてしまいそうにキツく縛られた唇も。俺はこれが意味するものを知っている
相手が男だという事に、戸惑いは隠せないんだけど
目の前の彼が言わんとする所を察した俺は、少しだけ考える素振りを見せた後、ゆっくりと口を開いた
「あー、じゃあ、移動しよっか。ゆっくり話せそうな所にさ」
「……っ、はいっ」
俺がそう言って柔らかい笑みを向ければ、今にも泣き出してしまいそうに潤んだ瞳が、大きく揺れた
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