【7】

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「ーーごめん」 俺は今日、初めて同性から告白された。好きですと、心の底から振り絞られた声で 身体は震え、声は上擦ってて、向けられる視線はどこまでも熱っぽい。本当に、全身で俺の事を好きだって言ってるみたいだ 目の前の彼は、好きだと言った後にこう続けた。想いを伝えたかっただけだと。ただ、聞いて欲しかったんだと その想いが、声に出さずとも全身からひしひしと伝わってくる 俺は憶えていなかったが、どうやら俺達は面識があったらしい。入学式に遅刻してきて、大学内で迷子になっていた時に俺に助けられたのだと たったそれだけの事で、俺の事を恋愛感情として好きになってしまったのだと、そう震えた声で呟かれた 「あ……えっと、憶えてなくて、ごめん」 「いえ。男からこんな風に想われるのは迷惑だってわかってたんですけど、どうしても伝えたくて」 「迷惑とかは思わねえよ。気持ちは嬉しいしさ。でも……ごめん」 「……先輩はどこまでも優しいですね。謝らないでください」 「じゃあ……ありがとうだったらいいのかな。俺の事を好きになってくれて」 「……っ……はい、その言葉だけで、充分ですっ……」 同性を好きになったんだ。俺にはわからない苦悩が、沢山あったんだろう。俺が出来るだけ優しく聞こえる様に柔らかく言葉を発せば、目の前の彼は堰を切ったように泣き出してしまった 相手が偏見を持ってるかも知れない、何を言われるかもわからない。むしろ聞いてすらもらえないかも知れない そんな状況でも、自分の気持ちを知って欲しいと勇気を出した彼に、尊敬の念を抱かされる 精一杯勇気を出して告白してくれたのに、その勇気に応えられないのが辛かった。上手い言葉を掛けてあげる事も出来ず、止まらない涙を拭ってあげる事も俺には出来ない 相手が男だったから、断った訳じゃない。今はただ、誰とも付き合う気にはなれなかった。付き合うって事はそんなに簡単な事じゃないんだと、つい最近気付かされたからだ 泣きながら何度も俺に礼を言って去っていく後ろ姿が、何故かさとの後ろ姿と重なって見えた。今にも折れてしまいそうに弱々しい背中に、何だか放っておけないとさえ思った それが彼に対してだったのか、はたまた、面影を重ねたさとに対してだったのか 告白の相手がもしさとだったら、俺は、何て言葉を返してたんだろう
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