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元居た教室の方へ戻る途中、ポケットに入れていた携帯電話が振動した。着信を知らせる振動の長さに、慌てて携帯電話をポケットから取り出す
画面には、さとの名前が表示されていた。それを目にした瞬間、ドクンッと一度だけ大きく心臓が跳ねる
「もしもし」
『お前、今どこに居るんだよ』
「えーと……」
『あー、いい。姿見えた』
辺りを見回して今居る場所を伝えようとした瞬間、プッツンと音を立てて通話を切られる。後ろから近付いてくる足音に気付いた俺が振り向けば、そこには呆れ顔のさとが立っていた
「お前、どこ行ってたんだよ。一緒に帰ろうって言い出したのはそっちだっただろ」
「あっ」
さとも俺も今日の授業は4限で終わり。俺がさとに、授業が終わったら一緒に帰らないかと言ったのは今朝の事だ
俺から言い出したのに、今の告白ですっかり頭から飛んでいた。俺が約束を思い出して声を上げると、呆れ顔のさとが更に呆れたと言わんばかりに盛大な溜息を漏らす
「はーっ、もしかして忘れてたのか?」
「ごめんっ!!怒ってるよな?」
「怒ってない。呆れてるだけ」
そう言ってさとは俺の頭にデコピンを一度食らわせると、何事もなかったように歩き出した。俺は慌ててさとを追いかけ隣に立つと、両手を合わせてもう一度謝る
「マジごめんっ、夕飯奢るから許して」
「今日バイト」
「でもバイト前に時間あるよな?」
「じゃあ、焼肉」
「ここぞとばかりに高いやつ言いやがって。肉は給料入ったら奢るから、今日はラーメンな」
「はいはい。しょーがないからラーメンで許してやるよ」
そう言ってさとがくしゃりと笑った。その表情には、怒りも呆れも見受けられない
さとがこんな風に笑うのは、結構珍しい。久々に見た屈託のないさとの笑顔に、何だか嬉しくて頬の筋肉が緩んだ
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