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「お前さ、明日も泊んの?」
自転車を押しながら隣を歩くさとが、そう尋ねてきた。俺は明日はバイトじゃなかったよなと頭の中で考え、直ぐに頷いた
「うん。明日バイト休みだから、泊まりに行くと思うよ」
「ふーん」
「なに?何かある?」
「いや別に。ただ、聞いただけ」
聞いただけ。そう言ったさとの表情は変わらない。だけど少しだけ上擦って聞こえた声が、まるで嬉しいとでも言われてるみたいで
纏う空気にほんのりとした甘さが混じる。俺は静かに、ゆっくりと体温を上げて、軽く握った拳にじんわりと汗をかく
先程告白してきた後輩が言った好きですと言う言葉が、一瞬頭にチラついた。それがさとの声と重なって消える
さとはどんな声で、言葉で、想いを紡ぐんだろう。素直に好きだと言葉にするんだろうか。震えた声で、掠れた音で、想いを口にするんだろうか
俺は何も知らない。さとがいつから俺の事を好きなのかも、今までどんな恋をしてきたのかも
俺が見ていたさとの世界はあまりにもちっぽけで、一緒に過ごす度に新しい一面が見えてくる。新しい一面が見れて嬉しいと思う反面、俺の中のさとが変わっていってしまうのが怖いとも思う
気付いた以上このままでは居られない。でも恋愛感情を抱くには、あまりにも親友で居た時間が長過ぎた
願わくば、このままで
胸に残る小さな痛みは、それから暫く消えなかった
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