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「俺、とか、どう?」
そう言われたのは、好きになったら男でもキス出来るのかと聞かれた直後の事だった
俺はさとの言葉に大きく驚いて、目を見開いてさとを凝視した。信じられないと言わんばかりに、えっ、と咄嗟に声を上げる
さとの言った言葉が何を意味しているのかは、直ぐに理解出来た。俺はさとから、遠回しに付き合わないかと言われたんだ
しかし俺が驚いたのは言葉の意味じゃない。その言葉を、さとの口から聞く事は無いだろうと思っていたからだ
何度も言うチャンスはあった筈なんだ。あんなにも一緒に居たんだから。だけどさとは何も言って来なかった。だから、きっとさともこのままで居たんだと思ってた
まさか、言われるなんて
さとに対して、俺はまだ何の答えも見出せてはいなかった。考えてなかった訳じゃない。けど俺は、多分さとの気持ちから逃げてた
さとが何も言ってこないからって、このままでいいと思って考えを先延ばしにしていた。さとも親友で居たいと思ってくれてるんだって、勝手に決め付けてたんだ
さとは、俺の事が好き。それはまるで再確認するみたいに、俺の頭の中にふわりと浮かんできた
その瞬間、心臓が大きく跳ねた。ドクンッ、ドクンッという音が耳の直ぐ側で聞こえる。だんだん鼓動が速くなっていく。自分でも止められないくらいに
ヤバい。どうしよう、なにも考えらんねえ。さとから目が、離せない
ジッと見つめた先でさとの唇がゆっくりと動いた。俺はただ、その動きを目で追った
「俺、さ……」
「うん」
「お……前が……」
「うん」
「す……っ、……っ…………」
その後に、言葉は続かなかった。俺はただ、ジッと堪えるように次の言葉を待つ事しか出来なくて
それから数秒間、或いは、数分。俺達が纏う空気はピンと張り詰め、緊張状態にあった
その中で、俺の視界に映るさとの身体が小さく震えた。苦しそうに歪められた顔、今にも切れてしまいそうに強く噛み締められた唇
いつもよりずっと小さく見える身体を、なんだか優しく包み込みたいと思った。俺はこんなにも弱々しいさとの姿を、見た事がなかった
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