【7】

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「お前が落ち込んでたから、冗談でも言って元気付けようとしたんだけど、失敗したな。恥ずかしいからもう掘り返すなよ」 そう言ってさとはベンチから立ち上がると、近くにあったゴミ箱に飲んでいたコーヒーの缶を入れてこちらに背を向ける。でもさとが向いているのは、明らかにさとの家の方角とは違っていた 「え、ちょ、どこ行く気だ……!?さとの家、反対方向じゃんっ」 「どこって、友達の家に寄って帰ろうかと思っただけだけど。そいつの家、ここから近いからさ」 「こんな時間に、かよ?」 「そいつの家に買ったCD忘れてったんだよ。ここまで来たついでに寄って帰るから、先に行くな。ああ、そうだ……コーヒー、ご馳走さま」 「ちょっ……待っ…………!」 足早に去りゆくその背中を見て、俺はこのままさとを行かせちゃいけない気がした。でも、足が地面に縫い止められたみたいに動かない。声が出ない 今引き止めたら、折角元に戻れそうな関係がまた危うくなるんじゃないのか。そう思う心が、俺の身体を動かなくさせる 矛盾だらけの俺の心境なんて知る由もなく、さとはどんどん俺から遠ざかっていく ひとりぼっちになった公園で、俺は冷たいコーヒーの缶を握り締めたまま、冗談だと言った言葉の方が本当であればいい。そう思いながら静かに目を閉じる その日を境に、俺はさとと会えなくなった
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