【8】

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俺の言葉にさとがグッと押し黙った。そんなさとを見て、 俺はますます苛立ちを募らせる 「来週っていつ遊べんの?さとからは全然連絡くれないし、なんか、遊びたいと思ってんの俺ばっかじゃん」 「……わかった。ちゃんと連絡するから、とりあえず腕、離せ」 「離したらどっか行く気だろ。遊ぶ日が決まるまで、離さない」 「……なっ、離せって!あんま触んなっ」 そう声を荒げたさとが、言葉を紡いだ後でしまったといった表情を見せた。でもそれはほんの一瞬で、次の瞬間には俯かれて表情が見えなくなった さとは本当に俺から逃れたいのか、必死に俺の腕を振り払おうとしてくる。しかし俺は更に力を強めて離そうとはしなかった 触んな、って……またそれかよ 何で親友なのに、触っちゃダメなの。何でそんな必死なの。わかんないよ、ちゃんと教えてよ 「ねえ、さとーー」 「おい。その腕、離せ」 尚もさとを責め立て様とした瞬間、俺の耳に聞き慣れない声が響いた。突然言葉を遮られ、油断した俺が手の力を緩めると、その声の持ち主がすかさず俺とさとの間に割って入る 俺からさとを隠す様に目の前に立ちはだかったそいつは、俺とは恐らく初対面だと思うのに、何故か明らかな敵意を持ってこちらを睨んできた その眼を見た瞬間、こいつ気に入らない。と、本能的に思った 「……あんた、誰だ。そこ退けよ。俺はさとと話してんだ」 「俺は上島の友達。上島と昼飯食べる約束してるんだ。中々約束の時間になっても現れないから、迎えに来た」 「……同じ学部の友達って、もしかしてあんたか?」 「まあ、恐らくそうだろうな。とにかくこっちが先約なんだ。優先してもらうぞ。ほら、上島、行こう」 そう言ってそいつはさとの腕を掴み、その場から立ち去ろうとする 「ちょっと待てっ……、話はまだっ……!」 離れていく背中に慌てて静止の言葉を叫ぶもその足は早く、俺の声は二人に届かない 必死に手を伸ばしても先を行くその手を再び掴む事は出来なくて、行き場を無くした俺の手は雲を裂くだけだった さとが必死に抵抗してきた感触が、まだこの手に残ってる。俺は掌を見つめながら、静かに、静かに呟いた 「……なんで、そいつの手は振り解かねえの?」
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