【8】

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突然、目の前で親友を掻っ攫われた。強い意志を持つその視線は、確かに言っていた。お前には、渡さないと 一度家に帰って来た俺は、バイトまでまだ時間があるからと、ボフッと音を立ててベッドにダイブした 仰向けになって、右手を天井へとかざす。一時間以上経った今となっては、もう既にさとに触れた時の温かな感触は殆ど残っていない。けど、払われた時の痛みは未だ消えてない 俺ははあ、と大きな溜息を漏らして全身から力を抜いた。目を瞑ると、先程のさととさとの友達だと言った男の顔が鮮明に浮かんでくる。足早に去って行く二人の光景に、過去の自分の面影を見た 昔から、さとは自分から進んで人と関わりに行くタイプじゃなかった。確かに、今までだって俺以外にも友達は居た。でもその友達とは学校だけで話をしたりするくらいの仲で、休みの日にどこかへ遊びに行くような仲ではなかった さとは自分のテリトリーに、簡単に人を入れたりしない。警戒心は強いし、簡単に人を信じない そんなさとも、俺に対しては泊まりに来ないかと誘ってきたし、俺の家に泊まりに来る事だって数え切れない程あった。それは家が隣だからとか、ずっと一緒に居たからなのかも知れないけど、少なくとも他の相手にそれをしない所を見ると俺は特別なんだと思ってた 俺だけがさとの特別であり、さとの中で、俺は一番親しい友達なんだと 勿論俺の中でもそれは同じで、俺の一番の友達はさとだ。親友と呼べる程の相手は他に居ないし、何年経ったってこの関係性は変わらない これからどれだけ長い年月が経とうとも、互いが特別な存在である事は揺るがないと思ってた
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