【8】

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だけど今はどうだ。さとの隣には、俺以外の奴が居る。二十年、俺がずっといた場所に さとはそいつの家に頻繁に泊まりに行く。これは、紛れもなく相手に気を許してる証拠だ。何十年も現れなかった、俺以外の、さとのテリトリーに入れる奴 その存在を強く感じた瞬間、ゾクゾクッと身震いした。俺は自分の居場所を脅かす存在に、今更になって何とも形容し難い恐怖を覚える あの日 ”試したい” と、さとは言った その言葉の意図は、自分の恋愛対象が本当に男かどうかを確認したいって事だったのか。例えば、男相手に勃つかどうか……とか 試すって、そういう意味?試すって、むしろそれ以外に何かあるか? 試すという意味がどうしてもそういう意味でしか捉えられない。だとすれば、頼んだのか そいつに、付き合ってくれって あいつと仲良くやってるから、俺はもう必要ないって事か? その瞬間、さとの顔が脳裏をよぎった あの、焼けるような熱い視線。赤く色付く肌。俺からの視線に、過敏に反応する姿 その顔、俺以外の奴にも見せんの? あの日、俺の選択が間違ってたのか。俺がOKしたら、そいつじゃなくて今でも俺が隣に居たのか さとが隣に居ないのなんて、俺には考えられない。じゃあ、中途半端に付き合えば良かったのか。付き合えば、何か変わるのか。親友という関係よりも、恋人の方がさとを繋ぎ止めれるのか ーー俺がさとの恋人になれば、あいつの所には行かないのか さとが自分以外の人間に頼るなんて、許せない。さとが頼る相手は、俺だけでいい。他の奴が俺達の間に割り込んでくる前に、割り込まれる隙間なんて微塵もない位、全部埋めてしまえばいい ドス黒い感情が俺の中でグルグル渦巻いて気持ちが悪い。苛々とする感情と吐き気が俺の身体をどんどん蝕んでいき、思考は悪い方向へと傾いていく。自分の感情が、自分でもコントロールの効かない所まで来てしまった 「付き合ってよ、俺と」 親友を独占したいと言う気持ちは、時に恋愛感情よりも強く俺を突き動かす
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