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「雨、か……」
外へ出ると、さっきまで降っていなかった雨がポツリポツリと降っていた。小雨だった事もあり、俺は特に気にも止めずそのまま駅に向かって歩き出す
自分の気持ちを一方的に押し付け、まるで逃げるようにさとの家を後にした
バイト先に向かって歩く足取りは、これでもかっていうくらいに重い
俺はさとの気持ちを完全に無視した。そうしないと、俺は自分の居場所を失う気がしたから
ドアを閉める瞬間視界に映ったさとの顔は、この世の中終わりと言わんばかりに青ざめていた
その表情を見た瞬間、ズキンッ、と音を立てて胸が軋んだ
ああ
こんな顔をさせてまで、さとと一緒に居たかったのか、俺は
俺の中に、こんなの間違ってると思う気持ちと、これでさとと一緒に居られると思う気持ちが同時に生まれた
その二つの感情は暫くの間俺の中でグルグルと渦巻いていたが、最終的に後者の感情の方が勝った
親友で居たいと言ったのは俺の方だったのに
こんなの、さとが怒るのは当たり前なのに
それでも側に居れると思うだけで、どうしようもなく嬉しさが込み上げてきた
その日から俺とさとの恋人関係はスタートした。さとは依然としてこの関係を認めていないみたいだったけど、次の日だって、なんだかんだ言いつつ俺を家に上げてくれた
なんで俺を避けていたのか、なんで俺が触れちゃいけないのか聞いてみたけど、さとは教えてくれなかった
それを聞いた時、少しだけ垣間見えた表情はとても辛そうで、言いたいのに言えないみたいに、何かを押し殺しているように見えた
そんな表情を見ると、正直、どうしようもなくなる。聞きたいのに、何だかそれ以上聞いちゃいけない気がして
怒ってるわけじゃないなら、俺を避けてた理由って一体何なんだろう。本当はその場でもっと問いただしたかったけど、さとの辛そうな表情を見続けるのが嫌でやめた
俺は身体から力を抜いて、一度大きく息を吐き出した。焦らずにはいられないけど、多分、焦ったって仕方ない
さとが理由もなく避けるなんて俺には思えない。もしそれが今は言えないっていうなら、さとが素直に言えるようになるまで待とうと思った
さとの感じからいって、多分、嫌われたわけじゃないと思う。今はそれがわかっただけで充分だ
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