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でもそれは、あまりにも、安易な考えであり、諸刃の剣でもあった 修一が俺の所に来てくれるのは、親友だからだ。この信頼を、俺は捨て切れなかった。修一と付き合いたいと思う反面、修一にとって、誰よりも安心出来る存在になりたいと願った 結局諦める事も出来ないまま、想いを告げる事も出来ないまま、俺は 「…………しま、上島」 大学生になった今でも、修一に囚われてーー 「おい上島っ……!」 「……っ……!?う……あ、えっと……遅かったな、夏富」 「お前な、何度も呼んだんだぞ」 「……悪い。ぼーっとしてた」 突然、頭に鈍い衝撃が走った。硬い、何か。例えるならそう、辞書の類の、角っこ その衝撃は俺を現実に引き戻すいい引き金だった。まるで耳栓を取った時みたいに、集中により遮断されていた周りの雑踏や話し声が、一気に耳へと押し寄せる 俺は頭を摩りながら後ろを振り返れば、器用にも右手に両手に料理の乗った学食のトレー、左手に俺の頭を襲ったであろう辞書を持ち、呆れた様な表情を見せる友人が立っていた 大学からの友人、夏富 逸(なつとみ すぐる)の姿を捉えるのと同時に、俺はここが学食だった事を思い出す ああ、しまったな、と一瞬息を詰まらせつつ、俺はいきなり攻撃してきた夏富を睨んでやった 今日は夏富と昼食の約束をしており、俺は窓際の席を確保して夏富を待っていた。夏富がやって来るまでの15分程の間で、俺はどうやら過去に意識を持っていかれていたらしい こんな所でぼーっとするなんて、何とも恥ずかしい話だ 夏富は俺が強い視線を送った所で一切気にした様子もなく、テーブルを挟んで俺の向かい側に座った 眼鏡のフレームの中心部を右手の人差し指で押し上げて、目の前に居る夏富が少しだけ首を横に傾ける。その仕草と同時に、短めの黒髪がさらりと揺れた 「……考え事か?」 「あー、いや、ちょっと昔の事を思い出してた」 「そうか」 事実、特になんという事はない、昔の事を思い出していただけだ。長年付き合ってきた感情だから、今更考え事というレベルでもない そう、考えるだけ、恐らく無駄だ 俺が何でもないと笑顔を見せれば、夏富はそうかと言って何事も無かった様にトレーの上に置かれた箸に手を伸ばした。俺の返答に、少なからず納得したんだろう 深入りしてこないあたりが、夏富らしい
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