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サンドイッチを片手にテーブルに広げたノートをめくっていると、不意に夏富の声が耳に届いた
「上島、レポートは?」
「あー、まだ」
「俺も終わってないから、今日うち来てするか?」
「今日バイト」
「残念だな」
残念だとは言いつつ、夏富は無表情だ。夏富は思っている事が表情には出ない性格だから、これが普通
夏富との会話は、いつもこれ位短い。まあ、これで大体通じるから、結構楽だ
夏富も一人暮らしで、レポートの提出日前になると大概どちらかの家に行き一緒にレポートをしている。夏富曰く、俺と一緒の方が相乗効果が発揮されるから、らしい
昼食を食べ終わり、次の講義を受ける為に席を立つ
夏富と並んで歩いている途中、突然夏富が足を止めた。俺は何事だろうと訝しげながら後ろを振り返れば、遠くを見つめて怪訝そうに眉を寄せる夏富が視界に入る
「どうした?」
「宮路が居た」
「修一?」
「前に見た時と違う女だな」
「……っ!」
夏富の前の女、という言い方にはどこか棘があった。俺はその言葉を聞いて息を飲み、恐る恐る夏富の視線の先を見てみる
そこには確かに、修一が居た。隣に、夏富の言う通り女を連れて
ここからだと顔は見えないけど、多分、あれはミキちゃんだ。きっと前に夏富が見たっていうのは、ミキちゃんの前に付き合ってた子だろう
仲良さそうに腕を組んで歩く姿に、俺は目の前の視界が歪んだ。俺がどう足掻いたって、敵う訳もない存在
腰くらいまで伸ばした綺麗に染まる茶色い髪、細いライン、抱き締めたら折れてしまいそうなほど華奢な身体
女の子の、身体
白いレースのスカートがよく似合ってる。修一と隣に並べば身長差も丁度よくて、本当に、お似合いだ
何となく現実を突きつけられた気分だった。こんな光景は今までだって何度となく見てきてはいるが、やっぱり、どうにも、慣れない
「……夏富、行こう。遅れる」
「……」
「夏富?」
「女は、なんであんな奴が良いんだろうな」
「あー、まあ、あいつ誰にでも優しいから、さ」
「優しい、ね」
どうやら夏富は修一の事が嫌いらしい。チャラチャラしている奴は、元々嫌いだと前に言っていた
話してみればきっと修一の良さにも気付いてもらえるんだろうけど、あいつの良さを知られるのもなんだか嫌だから、二人の間に入る事はない。本当にちっぽけな、独占欲だ
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