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本当は、振られてしまえばいいのに
「バイトだってしてるんだし、会える時間は限られてるだろ。ここに来る時間あるんなら、もうちょっと、彼女の家で長居してくれば良かったんじゃないのか」
こんな事を言ったって、本心では早く振られろと思ってる
振られて、最後に、俺の所に来てくれればそれでいい。例えそれが友人だからだとしても、それでもいい
お前が俺の所に、来てくれるなら
それ以上は、望まない
「……なんだよ。来ちゃ、いけなかったのかよ」
「別に、そういう訳じゃ、ないけど」
修一は俺の言葉に、不貞腐れた様な表情を見せた。そうじゃない、そうじゃないんだと言いたいのに、俺は中々上手く言葉に出来なかった
押し黙りそれ以降何も言えなくなった俺に、修一は盛大な溜息漏らす。それが怖くてビクッと身体を震わせれば、いつも明るい修一の声とは思えない程、静かな声が耳に届いた
「俺は…………彼女も大事だけど、さとの事も大事なんだよ。お前との時間だって、今は貴重だろ。会いたい時に会いに来るって、普通の事だって思うけど」
静かに紡がれていく言葉は、どこか優しく、暖かささえも感じて目頭が熱くなった。作っていた握り拳は自然と解かれ、指先の震えが隠しきれない程、俺は心臓を鷲掴みにされた
「……よく、そんなセリフさらりと言えたな」
今の顔を見られたらいけないと、頭の中で警鐘が鳴った。こんな、緩んで、赤く染まる、だらしない顔
見られたらきっと言い訳出来ない。先程の身体の冷たさが嘘みたいだ。酒だってまだ飲んでいないのに、こんなに、熱いなんて
やめろ
やめろ
何、言ってくれてんだ。勘弁しろよ
なんだよ、大事って。そんな事言われたら、勘違いしそうになんだろ
会いたいと思われる位には、俺がお前の特別だって
勘違いしたら、後で辛くなるのは俺の方なのに。修一には、彼女だって、居るのに
駄目だ、冷静になれ。修一はそんな意味で言ってない。俺の想いとは、全然違う
全然違う、のに、ああ、もう、好きだ。マジで、好き
「……修一」
「ん?」
「俺、さ」
「おう」
「俺……」
「なんだよ」
「…………お前と、親友になれて、良かった」
「ふはっ、なんだそれ」
修一が好きだからこそこの関係は壊せなくて、俺は好きだという三文字を、寸前の所で飲み込んだ
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