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そしてその一週間後、俺は修一に勢いよく泣きつかれる事になった。玄関のドアをノックされ、開けた瞬間に俺よりも身長の高い修一が俺目掛けて突進してくる
「うわぁああ!!また振られたー!」
「お前、結局振られたのか」
「慰めろっ……!」
「はいはい、いくらでも付き合ってやるから泣くなよ」
俺は修一の身体を全身で受け止めつつ、ぎこちなく背中に手を回してポン、ポンッと宥めてやる。こうやって泣きつかれるのは、これで何度目になるだろうか
修一はミキちゃんに振られたと言って、目に一杯の涙を溜めている。大の男だがそれはもう豪快な泣きっぷりで、俺の洋服は見事にびしょ濡れだ
また振られたのか、なんて思いつつ、不謹慎だが内心はちょっとホッとしてる自分が居た
修一が振られた事への歓喜と、俺の所に来てくれた事への安心。本当に、最低。俺の慰めたいと思う感情は、とても汚くて、邪だ
修一が彼女から別れを告げられるのはよくある事だが、今回は少し早かったかも知れない
やっぱり修一の良さを知ってるのは俺だけで充分だなんて、修一が最後に頼るのは他の誰でもない俺なんだって、心の片隅で思い、薄っすらとした優越感の様なものに浸った
ちっぽけな男の、ちっぽけな幸せ。心の中でだけは、俺が修一の一番で居たい
俺は事情を聞くために修一を部屋へ招き入れると、修一がいつ来てもいいようにと買い置きしてあったビールを冷蔵庫から取り出した
先にソファーに座った修一の目の前にビールをちらつかせて、仕方ない、と苦笑を漏らす
「自棄酒、付き合うから、何があったか話せ。明日休みだし、たっぷり時間あるから」
「さとおおっ」
「はいはい」
再び抱き着いて来ようとする修一の頭を掴み阻止すると、俺はいつもの距離を取ってソファーに座った。話を聞くのはいいが、不可抗力以外で抱き着いてくるのは勘弁しろ
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