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「……で、何があったんだ」
暫くはお互い無言のままビールを飲み、修一が少し落ち着いてきた辺りでそっと話し掛けてみた
修一はビールの缶を両手で持ち、ペコッ、ペコッと潰したり戻したりを繰り返しながら言い辛そうに口籠るも、俺がどうしたのかと優しく声をかければ、おずおずと口を開いてくれた
「……俺がさとの話ばっかしてたらさ、さとと私、どっちが大事なのって」
彼女にそう聞かれ、両方だって答えたら振られた、と修一は言葉を続けた。自嘲気味とも取れる様な語尾にいくにつれてか細くなる声に、俺は何だか凄く、修一の身体を抱き締めたい衝動に駆られた
いや、駆られただけじゃない。既に自分の意思関係なく、修一に手を伸ばしていた
慰めたいと、いつも元気で強気な修一の今にも折れそうな姿に、どうしようもなく慰めたいと思った
それと同時に、心の中でひしめき合う様に湧き上がる、どうしようもなく醜い感情。慰めたいと思うのに、酷く、もっと酷くしたいとも思った
もっと俺だけで、俺の事だけでいっぱいになればいい。そんなバカな事を考えてしまう位には、強烈に、先程の修一の言葉が頭に残って消えない
伸ばした手は修一の身体に触れる事こそ無かったが、かなり、危険な領域まで浸入してしまっていた
理性が保てなくなる、一歩手前
彼女の質問にどう答えたら正解だったのかわからない、嘘はつきたくなかったと呟く修一の言葉が、俺の中で何度もリピートされる
なんだよ、それ
なんだ。なんなんだ。それを言って、お前は俺を、どうしたいんだ
彼女と俺、本来なら優先すべきは彼女の筈なのに、なんで、選べないとか言うんだよ
簡単に喜んじゃいけないのに、修一は彼女に振られて憔悴しきっているのに、俺はどうしようもなく嬉しくて仕方なかった
友情だとわかっていても、駄目だ。無理だ。喜ばないなんて
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