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「なあ、恋愛と友情両方取るのって、そんないけない事かな」
「……俺は、いけないとは思わないけど。どちらも大切にする所が、お前の良さでもあるしさ。ただ、彼女の方がお前の良さがわかってなかったんじゃないか?」
本当は、彼女の気持ちはよくわかる。独占、したかったんだろうな
他の人には優しくしないで、構わないで、自分だけを特別扱いして欲しい
そう思ってたんだろう
けど、彼女の気持ちがわかった所で、修一には教えない。教えたくない。これは、明らかな独占欲だ
「世の中には、もっと良い奴沢山居るから、あんま思い詰めんなよ」
「でもっ……俺、振られてばっかっ……」
「お前の良さをわかってくれる奴が、絶対居るって」
だからもっと、もっと近くも見ろよ。他ばっか、見るな
他の奴は最後には、お前の前から消えてしまう。でも俺だったら、絶対にそんな顔させない。お前の前からいなくならない
だから、俺の事もーー
こんな事を思ったって、無駄だ。それでもやっぱり、こいつが振られる度に思ってしまうんだ
最初から、俺にチャンスなんて無いのに。男の俺に、修一の恋人になるチャンスなんて無いのに、それでもそういった対象として見て欲しいと思ってしまう
親友のままでいいなんて、本当は、嘘だ。全部、嘘
誰だって、好きな人と付き合いたいに決まってる
それから暫く、俺達の間に会話は存在しなかった。お互いに静かに、ただただビールを口に運ぶ
自分の浅ましさからか、なんとなく修一の方に視線が向けられず、俺は自然と地面へ視線を落としていた
何にもない、茶色のフローリングの上に敷かれた灰色のカーペットを見つめながら、俺は次に発する言葉を探すでもなく1本目のビールを缶を空にした
静寂が二人を包む中、その静寂を壊す様に不意に耳に届いたのは、どこか安心した様な、そんな吐息まじりの声だった
「……良かった」
「何が」
「さとが居なかったら、もっと落ち込んでたかも」
修一の言葉に、酷く心揺さぶられる。その言葉は、声は、媚薬と麻薬と麻酔薬を絶妙な量で調合させたみたいに、俺の心を、骨を、芯から溶かし蝕んでいく
頼むから、そういう事を言うなよ
泣きたくなるから。お前が好きだって、言いたくなるから
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